Ranunculus ―暁の彗星―
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ジュキル王国南東ブロックの小さな酒場

「なぁおい!聞いたか?」

「なんだよ?」

男が数名、酒を片手に何かを話している

「陰陽寮蔵人頭將霞、騎士団第1師隊隊長ヒメナ、魔撃特攻隊造形部隊主任ノーレッジが、たった3人でギルド作ったらしいぞ!?しかも、王国直属だ!!」

王国直属という言葉を聞き、呑んでいた酒を吹き出す

「マジかよ!?アイツらまだ10代だろ!?」

「だから、そんだけ実力あんだよ……!!アイツらについてる通り名知ってるか?禍瑠羅の將霞、唖雛羅のヒメナ、琴梛羅のノーレッジだとよ」

禍瑠羅、唖雛羅、琴梛羅と聞いて、男の1人が顔色を変える

「……それって神さんの名前だよな」

「あぁ。えらい出世したもんだな……親は大喜びだ。」


すると、男の1人が声を潜めて言う

「いや…それがよ。噂によると、3人とも今は親居ねぇらしいぞ。だから、必死で稽古して、地位と実力を得てんだと」

「あくまでも噂だろ?」

その男の話を鵜呑みにしない他の男

確かに、下町の噂ならその発信源も定かでないし、着色されてる場合が多い

疑ってかかる姿勢は大切だ

鵜呑みにすると思わぬところで身を滅ぼす


「………まぁ仮に親が居ねぇにしろ、あの化け物じみた実力は変わんねえしな。」

「…だな」

と苦笑混じりで話す男達



將霞達が知らないところで、王国直属ギルドとしての、暁の彗星の話は広まっていっていた





その日の早朝

すでに3人は騎獣に跨り、ゼクス帝国に向かっていた


最初に破壊する、強制空間移動機械(カルシスタ)の位置は、昨日作戦会議で決めてある

今はそこに猛スピードで向かっているのだ


「カルシスタ第7号機だったっけ?」

「うん。この先の山に囲まれたとこにあるから、一番監視は少ないはずだよ」

ゼクス帝国の人間は外にでるとき、顔を布か仮面などで隠すのが当たり前なため、將霞達には好都合だった

「もうすぐ国境だ。気を引き締めていけ」

「了解」

彼女達の騎獣は、普通のモンスターや妖から騎獣になったため、同種族のモンスターはその辺にゴロゴロいる

そのため、まさか王国の騎獣だ、などとは思われにくい


さらに帝国側も、無理矢理連れてきたモンスターを調教し騎獣としているため、帝国の人間になりすますこともできるのだ

まぁそれは本人の演技次第だが



「…見えたぞ」

ジュキル王国とゼクス帝国の国境の関所が見えてきた

3人は騎獣のスピードを落とし、將霞が関番の元へいく


「…帝国の紋章を見せろ」

関番が低い声でそれだけを言う

將霞は右手の指空き手袋を外し、手の甲に描かれた紋章を見せる

「…任務名は」

「ジュキル王国へ向かった、ダスク、他800の中小モンスターの追跡とジュキル王国の現在の戦闘力の計測です」

スラスラと言葉がでる將霞
全く疑わせる隙を与えない


「…ちゃんと報告書通りだな。よし、入れ」

「…はっ」

と、そのまま簡単に入れてしまった


「…あ、最後に名前と所属部隊を」

「…王国三将ヴィライト様直属、敵国調査部隊。私はラルヴァ、後の2人はリフィアとラント」

関番は名前と部隊を聞き、紙の束を調べる

「…よし。出国届けも出してあるな。では、呼び止めてしまってすまなかった」

「…いえ。関番お疲れ様です」

そして、3人は関所を後にする


「……いや〜。冷や冷やしたね。この国顔隠すのが当たり前で助かったね」

「ってか將霞凄くない?」

どうやったのとノーレッジ

しっかりと出国届けまで出してあり、名前も存在する人間のものだった


「あれは事前の下調べだな。後は、どれだけ堂々とするかだ」

「へぇ〜。ラルヴァとかリフィアとかラントって本人は今どこにいるの?」

「本国だ。その3人に聞いたことをそのまま関番に話したのさ」

「だからあんなにリアルなんだね」

ノーレッジが感心していると、ヒメナが「あ」と声を出す

「なんだ?」

「明るくなってきたよ!急いで山に行かなきゃ!!」

え゛と空をみてみると、東の空が明るんできた

「やば!!」

3人は超特急で騎獣を山の方へ向かわせた







ゼクス帝国――皇帝の間

1人の男が部屋の巨大な窓からカツカツと入ってきて、玉座にドカッと座る

「…お疲れ様です殿下」

「…ハスターか」

どこからともなく現れた男―ハスターを一瞥し、玉座に座る男がふーっとため息をつく

この、玉座に座る男がゼクス帝国皇帝エゼルダートだ

「GD-AXの様子は?」

「はい。順調に周りの水晶を破壊しております。じきに直接コードを繋げるかと」

「順調だな」

ハスターの言葉を聞き、満足げに笑う

そして、玉座から立ち上がり、先程入ってきた窓に向かって歩いていく


「またお出かけに?」

「あぁ。当分は帰らん」

いずこかへ去っていった主の背があったところを見つめ、ハスターは深々と頭を下げた








「……ここ?」

「多分ね」

3人はカルシスタがある施設より少し離れた木陰に身を潜めていた

「意外とモンスターいるんだね」

その施設の周りには数体のモンスターが彷徨いている
おそらく見張り役だろう


「そりゃね。大切なモンスター連れてくる機械ですもの。警備は万全にしてあるでしょうね」

「だが、ここは生憎山に囲まれてて人気がない。少しくらいなら暴れても良さそうだ」

と指をパキパキ鳴らす將霞

口元には薄ら笑いが浮かんでいる


「……溜まってるの…?」

黒いオーラを全身から放っている將霞に、ノーレッジがビクビクしながら聞く

「勿論。まだ本気は出し切れていない」

「んじゃあたいもこの大剣ちゃんの良いところを最大限いかせるように頑張ろっ。こないだの弱すぎたし」

「それもそうだね」

一応闇ギルド丸々1つを相手にしたのだが、この3人には物足りないようだ


ノーレッジが施設の大体の見取り図を書き、作戦を立ててゆく

「一応作戦の確認をしておくが、時間短縮のために屑覇達には外の奴らをやってもらう。そして、援軍が来たら倒してもらうのと、出入り口を確保してもらうことで、中に閉じ込められるたり、囲われたりするのを防ぐ。私達は中で別れて、各自モンスターを倒してカルシスタへとむかう。カルシスタを見つけたら他の2人が集まるまで待つ」

「了解」

「…多分覚えた」

しっかり返事をするノーレッジと、どこか頼りないヒメナ


「…多分て」

「…だってあたいにゃムリだよ」

とりあえずヒメナは最善を尽くすらしい



「…では行くぞ」

將霞の合図で、まずウェスパー達が飛び出して、周囲を徘徊しているモンスター達を誘う

「グルルルァ!!」

作戦通り、モンスター達はウェスパー達を追って、入口を離れた
その隙をねらい、3人が施設内へ侵入した

「なにあれ…?」

ヒメナが指さす方には、意志を持ったロボットのようなものが並んでいた

「…機兵ってやつじゃない?他のモンスターより少し手強いかも。外殻が鋼鉄で出来てるからね」

「ふーん。了解。……あ」

ノーレッジの説明を聞き、何かひらめいたヒメナ

「どうしたの?」

「え、秘密っ」

何か秘策を思いついたのか、はははっと笑いながら、モンスター達を倒しに、まっすぐ走っていった

「…気になるが、私達もさっさと任務を済ませよう」

「だね。終わったら問い詰めよう」

將霞が左、ノーレッジが右へ分かれ、それぞれモンスターを倒しに向かった
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