Ranunculus ―暁の彗星―
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「ハァ…ハァ…っ」

狭い路地の中を1人の少女が駆けていく


少女は小柄で、赤い髪が肩にかかる

猫の尻尾、大きなゴーグル、そして不釣り合いな大剣が特徴的だ



「っ待って下さいよぉ」

「ヒメナ隊長…!!」

その少女を2人の男が追いかけていた


「…今日くらいいいだろっ!」

「そんなっ!!仕事がたまりまくってしまいますよ!!」

「僕ら部下に押し付ける気ですか!?」

「あたいを追いかけてる暇があったらできるよっ!」

と少女――ヒメナはダンッと足を踏み切り、高く跳躍する

そして付近の家の屋根に飛び乗り、身を隠した



「…ああぁ…もうっ」

「仕方ない…戻るか…」


流石にもう追えないと、部下2人は元来た道をトボトボ戻っていった



「ふぅ〜撒いた撒いた」

ヒメナは大剣を屋根に降ろし、バタンと仰向けに倒れた




しばらく、雲が流れる空を眺めていると視界にいきなり人の顔が入ってきた



「よぉ」

「!!!!」


ヒメナはびっくりして起き上がったが、人影の正体を知るなり、大きなため息をついた



「なんだ…風蛇隊長じゃないですか…」


風蛇と呼ばれた人影は長身で白髪の男

狼の尻尾、左目の下の黒い模様、煙草が特徴的だ



「何だとは何だ。失敬だな」

「失敬って…」


風蛇はヒメナの横にドカッと腰を下ろした


「何でこんなとこにいるんすか」

「それはお前に聞きたいなぁ」

「あたいは風蛇隊長に聞いてるんです」


ヒメナの譲らない姿勢を見て、風蛇は仕方なく、ため息混じりで答えた


「…俺は……ただの現実逃避だ…」

「それをサボりと言うんじゃないんですか?」

間髪いれずに返すヒメナ


「そういうお前はどうなんだ」

仕返しとばかりに言い返す



「………」

よく考えてみれば、ヒメナもたった今、部下を撒いたところだった


答えられないヒメナを見て、風蛇はニヤッと笑う


「それを俗にサボタージュっていうんじゃないのかい?」

「風蛇隊長と一緒にしないでくださいよ」

「おや?やってることは一緒だろ?」

「サボり癖はないですよ!今日初めてです!」

「一回も二回も三回も一緒だよ」

「違ぁーーーーうっ!!!!」

としばらく舌戦を繰り広げていたが、ヒメナの怒号で一旦途切れる



「…まぁせっかく抜けてきたんだしどっか行くか?」

「あ あたい陰陽寮を見に行きたくて抜けてきたんだった」


なんで陰陽寮に、と風蛇が聞く

「あたい城の外にあんまり出たことないんですよね。風蛇隊長と違って」


ヒメナの言葉を聞き流してから、風蛇は苦虫を噛み潰したような顔をする


「…そーいや陰陽寮にすげぇ強いやつがいるぞ」

「何でそんなこと知ってるんですか?」


ヒメナの問いに、風蛇は遠くの方を見つめて言った


「…それが結構可愛くてよ〜。…口説きに行ったらボコボコにされた…」


それを聞いたヒメナは驚きを隠せなかった


「えっ!?とてつもなく頼りなくて、さぼり癖があって女たらしで信じられないけど史上最年少で王国騎士団第0師隊親衛隊隊長になった人がぁ!?」

「…ズバズバくるねぇ…」

一応先輩だよとボヤく風蛇



「まぁ…いってみるか」

「はいっ!!」

と2人は陰陽寮に向かい屋根の上を走っていった





しばらく走っていくと大きな建物が見えてきた

「おら、着いたぞ」

風蛇は純和風の大きな建物を指さして言った


「あれが陰陽寮だ」

「おーーー」


ヒメナが背のびをして遠くまで見えるように努力している


「凄い人はどこにいるんだぁ〜?」

「…テンション上がってるな」

「だって初めて仕事サボってきたんですもーん」



しばらく辺りをキョロキョロ見渡していると風蛇があ、と声を上げる

「みーつけた。あれ」


風蛇が指さす先では、丁度陰陽寮から1人の少女と2人の男が出てきた所だった



「あれかぁー」

すると、ヒメナがすっと屋根から飛び降りて3人のもとへ走っていった


「っあいつ…!?何するつもりだ…!?」


何か嫌な予感がして、風蛇は急いでヒメナを追いかけた




ヒメナは走り、3人の前に飛び出す



「貴様!いきなりなんだ!!」

ヒメナの目の前に、少女の後ろにいた1人の大男が出てきた


ヒメナはとりあえず名乗ることにした

「ジュキル王国騎士団第1師団隊長アイラナ・ヒメナだ!お前!!あたいと勝負しろ!!」

と、びしっと真ん中にいる少女を指さして叫ぶ



が、ダッシュで追いかけてきた風蛇に口をふさがれた

「もごっ!!」

「っバカヤロ!何考えてんだよ!!」」


そして少女の方を向いて言う

「仕事の邪魔しちまったな。すまねぇ」


完全に少女に怯えている風蛇が謝り、いくぞっと、暴れるヒメナをつれて帰ろうする

そのとき、少女が2人を呼びとめた


「我は蔵人所陰陽師、魁 將霞だ。丁度少し時間がある。少し位なら相手してやってもいいぞ」



思いがけない言葉を聞き、茫然としている風蛇の腕を、ヒメナは振り払って將霞の前に行く


「いいのか!?」

あぁと応じる將霞


將霞は典型的な陰陽師衣装で、黒銀色の長髪を結い、右目を包帯で巻いている
ヒメナより身長は高く、並ぶと大人びた印象がある



「將霞殿。上にはどのように?」

と將霞の後ろにいる細身の男が問う


「心配するな、珀。たまには息抜きが必要だ」

「御意」

將霞の言葉で、珀と呼ばれた男はすぐに下がった

先ほどの大男もそうだった

明らかに將霞よりも年上な2人が、將霞の言葉に従っている


そういうことから、將霞がどれだけの実力と信頼を備えているのかが分かる




さてと、とヒメナがいう

「なら、早く勝負しにいこうぜ!!」

將霞の実力を知ってか知らずか、ヒメナはやる気十分


將霞がふと考える素振りをする


「なぁ駿」

はっ、と駿という大男が応じる


「この辺にひらけた場所ってあったか?」

「…それなら、西に広い草原が」

「んじゃあ、そこにしようよ」

とヒメナが言うと、即座に駿が返す

「ヒメナ殿。少し距離がございます」

「んなもん気合いで走る!!」

と自信満々で答えるヒメナを見て、駿は少し言いにくそうに言った



「…片道2qほどあるのですが…」


「……ムリっ!!」

と一瞬で前言撤回するヒメナの横で、將霞がゴソゴソと懐をあさっている



「…何やってんの?」

「いや…式符があるかとおもってな。…あった」

と懐から符を5枚取り出した


「ちょうど5枚あった。見てろ」



將霞は地に膝をつき、5か所に符を置いて小さく呟く


「―――件」


その言葉には言霊が込められている

それに応じるように地面から五匹の大型の狐型のものがボコボコと出てきた


「うわっ!!」

突然のことに驚くヒメナ


「式を使う手がありましたか」

「あぁ。件だ。これなら行けるだろう」

「…なんで五匹?」

と風蛇が聞く



少し嫌な予感がしていたのだ



「…お前もいくだろう?我、ヒメナ、珀、駿、お前の5人だ。何か間違っているか?」

「俺も行くの!?」

「お前はヒメナの保護者のようなものではないのか?」


風蛇はそれを聞き、一瞬で青ざめ、絶対嫌だー!!と駄々をこねて暴れはじめた

ボコボコにされたときの恐怖を思い出したらしい



それを見たヒメナ

「……駿さん」

「何でしょう?」

「…首を遠慮なくやって下さい」

「……分かりました」


ヒメナに言われ、駿は風蛇に歩み寄り


「失礼」

と呟き、容赦なく首元に手刀をくらわせた



「うっ…」

と小さく呻いて倒れこむ風蛇を駿が受け止める
そして、珀と2人がかりで件に乗せロープでぐるぐる巻きにした


「…なにしてんすか?」

ヒメナは、傍から見るとおかしな行動である後半部について聞いた

「あぁ。こうしないと件から落ちますから。ヒメナ殿も巻いた方が安全ですよ」

と言いながら珀も駿も自分と件をロープで軽く巻く



「…というか…乗れるか…?」

と將霞がヒメナと件をじーっと見比べて言う



將霞がこう言った理由

実は件の背丈は、ヒメナの頭より少し低いくらいで、ヒメナは件に乗るために自分の背丈より高く飛ばなければならないのだ


男3人(1人はムリヤリ)は軽々と乗り、將霞はも慣れた手つきで乗っていた



ヒメナは何となーく気に障って、つい

「…大丈夫。1人で乗れる」

と言ってしまった


ので仕方なく、乗ってみようと試みる
しかし、やはり無理があった


「よーし!!」

ヒメナは諦めずに、遠くから助走をつけて飛び乗ることにした


「行くぞっ!!」


と、ダッと走り思い切り踏み切った


……が、勢いが強すぎて、逆に件を飛び越え、豪快に地面に落下する


「いってぇーー!!!」

と頭を抱えうずくまるヒメナを見た件は、犬で言う「ふせ」の形で伏せた


「…ありがとう」

とヒメナは自分の腰より低くなった背に乗る


感謝の意もありながら、伏せられるなら最初から伏せてよ、という不満も無い事は無い複雑な心境で、件の首のあたりをわしわしと撫でまわした



「よし。いこう」

「振り落とされるなよ。いけっ」

合図で將霞の乗る件を先頭に、建物の屋根に飛び乗り、西に向かって駆けて行った





「よし。着いたぞ」

と將霞達はひらけた草原にでた



「うぷっ…」

「気持ちわりぃ…」


將霞以外の4人はものすごく酔っているようだ


「…すごい速さで右往左往…」

「…ジェットコースターとフリーフォールを同時に乗ったみたい…うっ…」

4人とも件から降り、草原に倒れこむ



「…將霞殿…よく耐えられますね…」

ひどい吐き気に襲われながら、やっとの思いで吐き出した言葉



「ん?あぁ。件と屑覇だけ大丈夫だ。それ以外は全く駄目だな」

と平然という將霞



普通逆なんじゃないのか…?と思う風蛇だったがあえていわなかった
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